2021/05/02
漢方薬一覧(ハ〜ヒで始まる処方)
目次
- 排膿散(ハイノウサン)
- 排膿湯(ハイノウトウ)
- 麦門冬湯(バクモンドウトウ)
- 八味地黄丸(ハチミジオウガン)
- 半夏厚朴湯(ハンゲコウボクトウ)
- 半夏瀉心湯(ハンゲシャシントウ)
- 半夏白朮天麻湯(ハンゲビャクジッテンマトウ)
- 白虎加桂枝湯(ビャクコカケイシトウ)
- 白虎加人参湯(ビャクコカニンジントウ)
- 白虎湯(ビャッコトウ)
(ハイノウサン)
排膿散
①化膿症、②腫物、③発赤
腫れ物が硬い時に使用する。
※組成
枳実(きじつ):ミカン科、理気薬/微寒
芍薬(しゃくやく):ボタン科、補虚薬 — 補血薬/微寒
桔梗(ききょう):キキョウ科、化痰薬/平
※生薬の解説
・枳実は気滞を破り、硬いものを和らげる働きがある。
・芍薬は緊張を緩和し、疼痛を和らげる。
・桔梗は気を利し、膿を排する。
※使用目標例
・感染症は、初期には表実を発表すべきものがあり、表虚で補うべきものがあり、裏熱で下すべきものがある。それらは局所以外の全身症状があるが、症状が局所のみに限局して化膿浸潤し、しかも浸潤が強くて吸収もしなければ破れもしないものもある。こんな時、排膿散を使用する。また破れない潰瘍となっても、周囲の浸潤が強くて肉芽組織の硬いものに使う。
・フルンケル、カルブンケル、皮下膿瘍、化膿性リンパ腺炎、禁煙、扁桃膿瘍、蓄膿症、歯肉炎、歯周炎、麦粒腫、肛門周囲炎、
フルンケル、カルブンケル:化膿菌が毛包(もうほう)からもっと深く脂腺(しせん)にまで入ったもの。同時に2個以上の毛包、脂腺が化膿した状態は“カルブンケル”〔癰(よう)〕と呼ばれる。
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(ハイノウトウ)
排膿湯
①化膿症、②腫物のごく初期、③発赤
腫れ物が今にもつぶれそうなの時に使用する。
※組成
桔梗(ききょう):キキョウ科、化痰薬/平
芍薬(しゃくやく):ボタン科、補虚薬 — 補血薬/微寒
大棗(たいそう):クロウメモドキ科、補虚薬 — 補気薬/温
甘草(かんぞう):マメ科、補虚薬 — 補気薬/平
※生薬の解説
・桔梗には、去痰排膿作用があり(ビソルボン類似作用=「痰をうすめて粘りをとり、吐き出しやすくする。また、気道粘膜の線毛運動をよくして、痰の排出を助ける。」)、甘草と組んで咽頭を治す消炎作用がある。
・芍薬は緊張を緩和し、疼痛を和らげる。
・大棗は緊張を緩和し心脾を補うとされ、補血、強壮、利尿作用がある。
※使用目標例
・化膿症に使う。腫物のごく初期、フルンケルのようなもので、皮膚面からあまり盛り上がらず、少し熱を持って、発赤している時に用いられる。腫れ上がって、硬くなってきたものは排膿散がよく、区別がつきにくい時には、排膿散と排膿湯との合方である「排膿散及湯」が便利で良い。(腫れ物が硬いときは排膿散、今にもつぶれそうなのは排膿湯。どちらか判らないときは排膿散及湯)
・フルンケル、カルブンケル、腫瘍、潰瘍、歯槽膿漏、中耳炎、蓄膿症、痔瘻、扁桃炎などで膿がたまっているか、あるいは出ている物で周囲の浸潤が硬くないもの。
フルンケル、カルブンケル:化膿菌が毛包(もうほう)からもっと深く脂腺(しせん)にまで入ったもの。同時に2個以上の毛包、脂腺が化膿した状態は“カルブンケル”〔癰(よう)〕と呼ばれる。
※注意点
・全身症状がある時には効かない。頭痛、悪寒などの表証があれば桂麻剤、往来寒熱があれば柴胡剤などと証に応じて選別する。
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(バクモンドウトウ)
麦門冬湯
麦門冬湯は燥の風邪に用いる代表方剤
①発作性の咳、②のぼせ、③中間証
気管支炎や気管支喘息などで、痰の切れにくい咳をする者に用いる。
※組成
麦門冬(ばくもんとう):ユリ科、補虚薬 — 補陰薬/微寒
半夏(はんげ):サトイモ科、化痰薬/温(有毒)
大棗(たいそう):クロウメモドキ科、補虚薬 — 補気薬/温
人参(にんじん):ウコギ科、補虚薬 — 補気薬/微温
甘草(かんぞう):マメ科、補虚薬 — 補気薬/平
粳米(こうべい):イネ科、補虚薬 — 補気薬/涼
※生薬の解説
・半夏には、中枢性の鎮咳作用があり、加えて粘液(痰)を溶解する作用もある。
・麦門冬、大棗、人参、甘草、粳米には、体を潤し、水分を保つ作用がある。
・大棗、人参、粳米は、胃気を補い、肺の虚を補う助けをする。
※使用目標例
・本方は半夏を主薬とした鎮咳剤である。半夏は体を燥かす作用があるため、麦門冬、人参、粳米、大棗、甘草など、体を潤し、水分を保つ作用がある薬物を配合してある。このため、本方は燥の風邪に用いる代表方剤である。体が痩せて乾燥している老人などにも用いる。
・乾性の咳に用いる。コンコンと乾いた咳をし、喉に小さな痰が張り付いて咳き込み、飲み物で喉を湿らせると気持ちが良いもの。
・妊娠咳で、咳をすると小便が漏れるもの。
※使用目標例
・体力が無く、手足の冷えがあって咳が遷延する人に麦門冬湯を用いると、効果が無く、かえって咳が悪化することがある。このような虚証で冷えを有する場合には、桂枝湯+麻黄附子細辛湯を用いて、身体を温めて治療するのが良い。
●麦門冬湯VS半夏厚朴湯VS滋陰降火湯 VS 桂枝加厚朴杏仁湯
麦門冬湯証は乾性の咳であるが、半夏厚朴湯は、湿性痰がからんで咳が出る場合に適応となる。さらに麦門冬湯よりもさらに咽頭粘膜が乾燥して、咽頭に妙な熱がこもってテカテカと赤いときには、滋陰降火湯が使用される。桂枝加厚朴杏仁湯は、布団に入ると痙攣性に咳き込み、水溶性の痰が絡む場合に使用される。
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(ハチミジオウガン)
八味地黄丸
八味地黄丸は陰証で最も頻用される方剤
八味地黄丸は腎虚に対する最も代表的な方剤
①下半身の脱力、腰痛、②多尿、③冷え症
漢方的に腎機能の低下のために、腰痛、多尿、冷え症などの起こる者に用いる。
※組成
(熟)地黄(じゅくじおう):ゴマノハグサ科、補虚薬 — 補血薬/微温
山茱萸(さんしゅゆ):ミズキ科、収渋薬 —固精縮尿止帯薬/微温
山薬(さんやく):キク科、補虚薬 — 補気薬/平
沢瀉(たくしゃ):オモダカ科、利水滲湿薬 — 利水消腫薬/寒
茯苓(ぶくりょう):サルノコシカケ科、利水滲湿薬 — 利水消腫薬/平
牡丹皮(ぼたんぴ):ボタン科、清熱薬 — 清熱解毒薬/微寒
〜以上、「六味地黄丸」〜
桂枝(けいし):クスノキ科、解表薬 — 発散風寒薬/温
(炮)附子(ぶし):キンポウゲ科、温裏薬/熱(有毒)
※生薬の解説
・地黄は、栄養を補い老化を防ぐ(腎陰の不足を補う)作用、消炎止血作用、神経反射を良くする作用がある。山茱萸は地黄の働きを助けて腎陰の不足を補い、虚熱を清して、体を潤す。さらに虚熱をさますために清熱涼血の牡丹皮を配合して用いる。
・山薬には補気健脾および固精縮尿の作用があり、また疲労回復の効果がある。
・茯苓は利尿的な作用があり、また沢瀉にも強い駆水作用がある。
・桂枝と附子は熱剤として陽気を補う。
※使用目標例
・八味地黄丸は、陰証でも最も頻用されている方剤であり、太陰病で適応となる方剤である。特徴は、主体が下半身にあることである。附子が入っているので、冷えや痛みがあり、どちらも下半身を中心に生じる。特に冷えは腰から下が一番冷える。しばしば、冷え性なのに、足底だけほてることもある。高齢者に出現しやすい頻尿や前立腺肥大などでみられる遷延尿(排尿開始まで時間がかかる)、夜間頻尿、性欲減退にも適応となる。
・八味地黄丸は、上半身を冷まし、下半身を温める。また胃もたれを起こす漢方薬のナンバーワンなので、胃の弱い場合は「真武湯」で代用する。
・八味地黄丸は、腎虚(漢方医学的な“腎”の機能低下)に対する最も代表的な薬でもある。漢方医学的な腎は、産まれながらの生命力が宿る場所で、その働きは年とともに弱くなる。つまり老化と腎虚の出現には密接な関係がある。年をとると、腎気が衰え、腎虚の治療薬である八味地黄丸は、加齢とともに出現する様々な疾患に著効を示す。例えば、視力や聴力の低下、味覚の低下、骨や筋肉の衰えなど。
・適応疾患としては、腰痛、膝関節痛などの疼痛性疾患、喘息などの呼吸器疾患、性交不能症、あるいは腎炎、ネフローゼなどの腎疾患。また糖尿病の第一選択薬である。糖尿病の中でも、動脈硬化の進行や白内障などの視力低下、神経障害などの老化で出現するような障害が合併する疾患が適応となりやすい。
・使用目標としては、少腹不仁(臍から下の近くが鈍くて、腹力も弱い)が重要である。筆の先で下腹部と上腹部を触れると上に比べて下の方で知覚が鈍い。また心下痞鞭を伴う事が多い。一方、ひどく虚して胃腸が弱いような人では、しばしば胃にもたれたり、下痢気味になって使いにくい。このような場合、日本酒を温めて、杯一杯ほどで八味地黄丸を飲むと、副作用が出現しにくくなる。
・糖尿病などに伴う多尿の口渇に用いる。
・足が冷えたりほてったりする者(陰陽両虚)に用いる。
・歴史的に言えば、まず八味地黄丸があって、発育期で陽気が盛んな小児に使うため、陽気を増す、桂枝と附子を去って使ったのが六味地黄丸である。小児に限らず、陰が衰えて陽が盛んな人に用いる。この点を八味地黄丸と区別しながら使う目標としなければならない。その区別が一番はっきりしているのは口渇で、どちらにも口渇であるが、六味地黄丸は冷飲を好み、八味地黄丸は熱飲を好む。
・白内障には八味地黄丸で良い事が多い。
※注意点
・胃腸の弱いものや、本方を服して食欲減退や下痢をするものは不適である。
・(炮)附子は、熱性炎症や化膿のあるもの、陽実証には禁忌である。
●八味地黄丸VS苓姜朮甘湯
八味地黄丸は、下半身、特に下に行けば行く程冷える事が多いが、苓姜朮甘湯は、特に腰がスースー冷える人に良く効く。
●八味地黄丸VS白虎加人参湯
糖尿病で八味地黄丸を使って思わしくない場合、白虎加人参湯に転方すると良い場合がある。またその逆もある。どちらも口渇が目標だが、白虎加人参湯は尿利の変化は少なく、八味地黄丸の方は多くは多尿、時には小便不利がある。
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(ハンゲコウボクトウ)
半夏厚朴湯
半夏厚朴湯は気滞あるいは気うつに対する代表的な方剤
①気鬱、②喉に塞がる感じ、③神経症
気を巡らせる薬であり、中間証に用いる。
※組成
半夏(はんげ):サトイモ科、化痰薬/温(有毒)
生姜(しょうきょう):ショウガ科、解表薬— 発散風寒薬/微温
茯苓(ぶくりょう):サルノコシカケ科、利水滲湿薬 — 利水消腫薬/平
〜以上、「小半夏茯苓湯」〜
厚朴(こうぼく):モクレン科、化湿薬/温
蘇葉(そよう)= 紫蘇葉(しそよう):シソ科、解表薬 — 発散風寒薬/温
※生薬の解説
・半夏と厚朴には食道、腸管、気管支の痙攣を止める作用がある。厚朴はクレーラ様作用があり、食道、噴門の痙攣を緩める。腸の痙攣による腹痛、腹満、しぶり腹(残便感があり、繰り返し腹痛を伴い便意をもよおすもの)にも効果がある。また、半夏は鎮咳、鎮嘔、粘液を溶解して痰を除く去痰作用のほかに鎮静作用があり、厚朴の作用を助けて、平滑筋の痙攣を緩める作用がある。
・半夏には中枢性の鎮嘔制吐作用、鎮咳作用があり、生姜には末梢性の制吐作用がある。半夏と生姜で、プリンペラン(D2受容体ブロックによって脳内嘔吐中枢を抑制し、吐き気を抑える)やナウゼリン(吐き気の抑制と胃腸の排出機能を正常化させる)類似作用がある。
・半夏には、中枢性の鎮咳作用があり、加えて粘液(痰)を溶解する作用もある。
・蘇葉は、気分を晴れやかにして、半夏や厚朴の制吐作用、鎮咳作用を助ける。
・半夏、生姜、茯苓の3味で小半夏茯苓湯となり、悪心、嘔吐を抑える作用がある。
・茯苓には利水作用もあり、組織間、細胞間の水を血中に吸収させる。
※使用目標例
・気滞あるいは気うつの治療で、最も頻用される。半夏厚朴湯が適応となる病態で最も特徴的な症状は、咽中炙臠(いんちゅうしゃれん)と言って、喉のところに炙った肉がつかえたような異物感である。例えば、咽頭神経症などによく使用される。そのため、いわゆる向神経薬と捉えられるが、実際には向神経薬ではなく、呼吸器疾患などで喉に実際、痰が絡んでよく切れない、痰が絡むので咳が出て困るといった方に半夏厚朴湯を使用すると、痰の切れが良くなって治る。
・風邪の治りきらないような時で、そろそろ舌に苔が出てきて、胸脇苦満も認められ、また喉に痰がからんだり、ちょっと何か詰まった感じが残るようなときに、柴胡桂枝湯と半夏厚朴湯などの合方が有効である。
・軽症の鬱病に用いる。
※注意点
・半夏厚朴湯は、衰弱、弛緩の甚だしいものには用いられない。
・神経症の多くに桂枝茯苓丸を併用する。
●麦門冬湯VS半夏厚朴湯VS滋陰降火湯 VS 桂枝加厚朴杏仁湯
麦門冬湯証は乾性の咳であるが、半夏厚朴湯は、湿性痰がからんで咳が出る場合に適応となる。さらに麦門冬湯よりもさらに咽頭粘膜が乾燥して、咽頭に妙な熱がこもってテカテカと赤いときには、滋陰降火湯が使用される。桂枝加厚朴杏仁湯は、布団に入ると痙攣性に咳き込み、水溶性の痰が絡む場合に使用される。
●半夏厚朴湯VS香蘇散
半夏厚朴湯の場合、喉や心下など、具体的につかえる場所がある。それと比較して香蘇散の場合は、フワッとこの辺という感じで、はっきり特定出来ない場合が多い。
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(ハンゲシャシントウ)
半夏瀉心湯
①心窩部の痞え、②悪心・嘔吐、③腹鳴
心窩部の痞えと悪心、嘔吐、腹鳴、食欲不振のある者に用いる。胃炎、胃潰瘍、神経症に用いる。
※組成
半夏(はんげ):サトイモ科、化痰薬/温(有毒)
乾姜(かんきょう):ショウガ科、温裏薬/熱
黄連(おうれん):キンポウゲ科、清熱薬 — 清熱燥湿薬/寒
黄芩(おうごん):シソ科、清熱薬 — 清熱燥湿薬/寒
人参(にんじん):ウコギ科、補虚薬 — 補気薬/微温
大棗(たいそう):クロウメモドキ科、補虚薬 — 補気薬/温
甘草(かんぞう):マメ科、補虚薬 — 補気薬/平
※生薬の解説
・半夏と乾姜には、悪心、嘔吐を止める作用がある。
・黄連は、横隔膜前後から上の比較的実証の対する薬。黄芩は、横隔膜前後の熱を冷ます。また黄連と黄芩は漢方消炎剤として幅広く用いられる。充血、炎症を抑制し、特に動脈性の出血を止める。さらに、鎮静作用、健胃作用、降圧作用などがある。
・乾姜は、体を温める作用がある。従って、黄蓮や黄芩で熱を冷ましながらも、乾姜で胃の辺りを温めて活力をつけ、補う作用を持っている。また乾姜と甘草はともに、腸鳴、下痢を治す。
・人参は、上腹部の痞え、痛みをとる。また身体の潤いをつけ、体力を補い、健胃作用もある。
・大棗は、鎮静、鎮痙作用がある。そして甘草は、大棗とともに痙攣を抑制する。また大棗、甘草は諸薬を調和する。
・甘草は急迫を緩和するとされ、脾胃を補い、肺を潤して毒を除き、諸薬を調和する。
※瀉心湯類
漢方処方の分類で「黄芩」と「黄連」を主薬とする処方群である。瀉心とは「心下のつかえ感を去る」と定義され、胸やみぞおちのつかえがある人を目標としている。代表的な方剤に半夏瀉心湯、生姜瀉心湯、甘草瀉心湯、三黄瀉心湯、黄連解毒湯などがある。前3つの処方の構成生薬は同じであるが、甘草瀉心湯は甘草を増量し、生姜瀉心湯は乾姜を減らして生姜を加味している。半夏瀉心湯は軽い吐気や嘔吐、食欲不振、腹中雷鳴を目標とし、生姜瀉心湯は嘔吐が激しいときに、甘草瀉心湯は消化管全体が虚し下痢が続く場合および精神不安を伴う場合に用いる。一方、主薬二味に大黄を加えた三黄瀉心湯は消炎瀉下薬と考えられ、上半身の充血を鎮める意味を持ち、高血圧の諸症状で便秘のある人に用いる。便秘のない場合は黄連解毒湯とし、皮膚瘙痒症にも適応する。これら2種の処方は虚している人には使用しない。
※使用目標例
・瀉心湯というように、心胸、上腹部に寒熱が交錯して、煩熱状態にあるものを瀉下してしまうのが、半夏瀉心湯の主眼である。
・柴胡が入っていないので、胸脇苦満はないが、黄蓮、黄芩が入っている方剤は、心下の痞(みぞおちのつかえ)をとる作用があり、使用目標となる。また人参が入っており、心下が単につかえるだけでなく、抵抗(鞭)がある時に使う。腹部の所見は、虚実間であるため、腹力は中程度から少し弱く、心下痞鞭(痞鞭は、痞えた感があって、触れると腹壁の下に硬いゴムボールのような物に触れる。それを心下痞鞭という。)があるということになる。このとき、痛みは無い。もし心下痞鞭に痛みが加わる時は、結胸と言って、柴陥湯を用いる。
・体表部の熱が消化器にも移行し、心下部が痞えて膨満したり、吐き気がしたり、腹が鳴ったりするものが目標である。胃部で熱の邪と水の邪とが一緒になり、ガスを生じて、それが上下に動揺している。
・胃から上に少し熱があったり、吐き気がある時に使用する。半夏は吐き気をとる作用がある。時に吐く事があっても、激しい嘔吐ではない。また乾姜が入っているので、少し冷えがある時に使用する。
・胃炎、胃酸過多、胃潰瘍で悪心、嘔吐、ゲップ、むねやけのある者に用いる。ただし、痛みがある時は、黄連湯の方が良い。
・自覚症状としては、腸の蠕動運動がありお腹がゴロゴロいったり、腹痛があったり、下痢をしたりする。
・H2ブロッカーが適応するような者に用いる。H2ブロッカーでは一時的に治ったようになるが、再発を繰り返す。本方を与えておくと、やがて再発しなくなる。
・陽証の場合の下痢は、裏急後重といい、しぶり腹(残便感があり、繰り返し腹痛を伴い便意をもよおすもの)か、肛門が熱いことがあるが、半夏瀉心湯、生姜瀉心湯、甘草瀉心湯の3つの瀉心湯に限っては、陽証でありながら、裏急後重を伴わないのが特徴である。
・急性、慢性胃腸炎、胃酸過多症、消化不良、胃下垂、胃拡張、消化潰瘍、神経性胃炎、神経性嘔吐、つわり、二日酔い、食欲不振、神経症、神経衰弱、不眠、口内炎、口中びらん
●半夏瀉心湯VS生姜瀉心湯VS甘草瀉心湯
半夏瀉心湯は吐き気が中心である。ゲップや胸やけがあれば、生姜瀉心湯となる。急迫症状、例えば下痢であれば頻回であったり、冷えが強そうな時は、甘草瀉心湯を用いる
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(ハンゲビャクジッテンマトウ)
半夏白朮天麻湯
①頭痛、②胃腸虚弱、③めまい
胃腸虚弱で冷え症、めまい、頭痛を訴える者に用いる。
※組成
人参(にんじん):ウコギ科、補虚薬 — 補気薬/微温
白朮(びゃくじゅつ):キク科、補虚薬 — 補気薬/温
半夏(はんげ):サトイモ科、化痰薬/温(有毒)
茯苓(ぶくりょう):サルノコシカケ科、利水滲湿薬 — 利水消腫薬/平
生姜(しょうきょう):ショウガ科、解表薬— 発散風寒薬/微温
陳皮(ちんぴ):ミカン科、理気薬/温
〜以上、「六君子湯」—「大棗」—「甘草」〜
蒼朮(そうじゅつ):キク科、化湿薬/温
麦芽(ばくが):小麦科、消食薬/平
天麻(てんま):ラン科、平肝熄風薬 — 熄風鎮痙薬/平
神麹(しんきく)= 神曲(しんきょく):小麦科、消食薬/温
黄耆(おうぎ):マメ科、補虚薬 — 補気薬/微温
沢瀉(たくしゃ):オモダカ科、利水滲湿薬 — 利水消腫薬/寒
黄柏(おうばく):ミカン科、清熱薬 — 清熱燥湿薬/寒
乾姜(かんきょう):ショウガ科、温裏薬/熱
※生薬の解説
・人参と白朮には胃腸機能を改善し、元気をつけて補う作用がある。
・生姜は、胃腸を温め、機能を整える。
・半夏には、中枢性の鎮咳作用や鎮静鎮嘔作用があり、加えて粘液(痰)を溶解する作用もある。湿痰で量が多く粘度の高くない痰では、半夏が粘液(痰)を溶解し、茯苓が溶解した水(痰)を血中に吸収し、陳皮が痰の排出を促す。
・生姜は、中を温め、痰を化して除く。
・蒼朮は風と湿を発散する。
・神麹と麦芽は、食の消化を助け、胃中の滞気を解消する。
・天麻と沢瀉は、胃腸の機能低下、肝陽上亢によるめまい、頭痛を治す。
・黄耆は、皮膚に水毒がたまるような異常に使用するが、同時に元気を補ったり、免疫力をつけたりする作用がある。また陽を助ける役目をし、衛気を実し、表を固める。
・黄柏は、腎と下焦の熱を冷まし、胃燥を潤し、下痢を止める。
・乾姜は主にお腹が温めて、冷えによって起こる腹痛、下痢、悪心、嘔吐などを治す。
※使用目標例
・水毒上逆の頭痛とめまいを目標にする。水毒の上逆は、平素から胃腸が弱くて胃下垂症や胃アトニーの人に見られ、軽度のものは血色がすぐれず、疲れやすい。食後に眠気がさし、手足が冷えるのを訴え、頭痛が持病である。激しいときはめまいがあり、吐いたり、首をこるのを訴える。
・慢性胃腸炎、胃潰瘍、メニエール病、眼振性めまい、めまい、耳鳴り、頭痛、胃弱、嘔吐、手足冷え、食後倦怠、頭痛悪心、自律神経失調症、脳動脈硬化症、脳血行障害
※注意点
・半夏白朮天麻湯の頭痛は、頭に鍋をかぶされたような感じがするという。顔色は白いか、青白い。
・ただ冷え症で、胃腸が弱そうな、痩せた人のときは桂枝人参湯の場合もある。
●四君子湯VS六君子湯 VS香砂六君子湯VS半夏白朮天麻湯
四君子湯は気を補う典型的な生薬だけで構成されており、この四君子湯に二陳湯という胃腸の水毒をさばくような半夏、陳皮を含む方剤を加えた方剤が六君子湯である。四君子湯は脾胃を補うといいながら、結果的には気を補うのが専門の薬であるが、六君子湯は、それに対して少し水毒をさばく作用を持っている。従って、四君子湯は単に気が虚している場合に使用し、六君子湯は、胃の辺りに水毒が溜まって消化吸収が悪いような時に使用する。一般的には、胃の弱い方で、無難に見て行く時には六君子湯を良く使用する。また六君子湯に縮砂、藿香、香附子が加えられた香砂六君子湯は、食後眠くなり、手足がだるく頭重を訴えるものに良い。頭痛が強ければ、もっと発展させて半夏白朮天麻湯を用いる。
●呉茱萸湯VS半夏白朮天麻湯
吐き気を伴う頭痛は呉茱萸湯の場合と半夏白朮天麻湯の場合がある。呉茱萸等の方は片頭痛が多く、半夏白朮天麻湯の場合は、眉間のあたりの前額から登頂にかけて痛み、少し首を動かしてもめまいがひどく、体が中に浮いているように感じるという。
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(ビャクコカケイシトウ)
白虎加桂枝湯
①強い発熱、②口渇(頻渇)、③自汗
のぼせる傾向があり、上半身に熱症状が出る場合や、頭痛や関節痛を伴う場合に用いる。
※組成
知母(ちも):ユリ科、清熱薬 — 清熱瀉火薬/寒
石膏(せっこう):硫酸カルシウム、清熱薬 — 清熱瀉火薬/大寒
甘草(かんぞう):マメ科、補虚薬 — 補気薬/平
粳米(こうべい):イネ科、補虚薬 — 補気薬/涼
〜以上、「白虎湯」〜
桂枝(けいし):クスノキ科、解表薬 — 発散風寒薬/温
※生薬の解説
・石膏は、熱を冷ます作用があり、太陽病でも、熱が強い病態に適応となる。知母も熱を冷ます作用があり、粳米とともに潤いを補い、脱水を防ぐ作用がある。
・甘草、粳米には、脱水を防ぐ作用とともに、健胃作用がある。
・甘草には、急迫を治す効果がある。
・桂枝には、全般に様々な薬の作用を表に引っぱる力やのぼせを抑える力がある。
※使用目標例
・白虎湯にのぼせる傾向が加わり、上半身に熱症状が強くでる場合は、白虎桂枝湯を使用する。桂枝には、表に薬の働きを持っていくので、頭痛や関節痛を伴う事がある。
・陽気がありすぎるという感じが発熱にも疼痛にも感じられ、悪寒が一つもないという状態なら不思議なほどに効く。
・子供は陽の塊だというごとく、白虎加桂枝湯の証は小児に起き易い。
※注意点
・石膏を胃腸虚弱な者に用いると、胃腸障害を起こし、下痢を起こす事がある。
・桂枝の服用により、発疹が出現する場合がある。
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(ビャクコカニンジントウ)
白虎加人参湯
①発熱、②口渇、③発汗
身体に熱が充満して、体液が欠乏し、口渇を訴える者に用いる。
※組成
知母(ちも):ユリ科、清熱薬 — 清熱瀉火薬/寒
石膏(せっこう):硫酸カルシウム、清熱薬 — 清熱瀉火薬/大寒
甘草(かんぞう):マメ科、補虚薬 — 補気薬/平
粳米(こうべい):イネ科、補虚薬 — 補気薬/涼
〜以上、「白虎湯」〜
人参(にんじん):ウコギ科、補虚薬 — 補気薬/微温
※生薬の解説
・石膏は、熱を冷ます作用があり、太陽病でも、熱が強い病態に適応となる。知母も熱を冷ます作用があり、粳米とともに潤いを補い、脱水を防ぐ作用がある。
・甘草、粳米、人参には、脱水を防ぐ作用とともに、健胃作用がある。
・甘草には、急迫を治す効果がある。
・人参は身体の潤いをつけ、体力を補う。
※使用目標例
・白虎加人参湯証の特徴は、陽明病でありながら時々寒気がし、皮膚の潤いがないような状態、例えば糖尿病のひどい人は、どんどん水を飲んで、尿量もかなり多く、皮膚がカサカサして脱水ぎみのことがある。アトピー性皮膚炎で、かなり症状が進み、皮膚のかさつきが強い症例に著効する場合もある。
・感染症、熱射病:高熱を出して発汗が盛んで、このため脱水して、口渇があり水を飲みたいがる者に用いる。
・関節リウマチ:関節に熱はあるが浮腫の無い者に用いる。
※注意点
・煩渇のみを考えれば人参は、チクセツニンジンの方が良いそうである。
・石膏を胃腸虚弱な者に用いると、胃腸障害を起こし、下痢を起こす事がある。
・人参は、元気が衰えた者に適応であるが、実証に大量に用いると、のぼせ、鼻出血、血圧上昇が起こる事がある。
●八味地黄丸VS白虎加人参湯
糖尿病で八味地黄丸を使って思わしくない場合、白虎加人参湯に転方すると良い場合がある。またその逆もある。どちらも口渇が目標だが、白虎加人参湯は尿利の変化は少なく、八味地黄丸の方は多くは多尿、時には小便不利がある。
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(ビャッコトウ)
白虎湯
①強い発熱、②口渇(頻渇)、③自汗
体が重くて寝返りしにくいもの。口や舌が乾燥して舌苔を生じ、食味がなくなるものに用いる。
※組成
知母(ちも):ユリ科、清熱薬 — 清熱瀉火薬/寒
石膏(せっこう):硫酸カルシウム、清熱薬 — 清熱瀉火薬/大寒
甘草(かんぞう):マメ科、補虚薬 — 補気薬/平
粳米(こうべい):イネ科、補虚薬 — 補気薬/涼
※生薬の解説
・石膏は、熱を冷ます作用があり、太陽病でも、熱が強い病態に適応となる。知母も熱を冷ます作用があり、粳米とともに潤いを補い、脱水を防ぐ作用がある。
・甘草、粳米には、脱水を防ぐ作用とともに、健胃作用がある。
・甘草には、急迫を治す効果がある。
※使用目標例
・白虎湯証は、熱が非常に強い状態で、比較的力があり、排出量の多い脈である。症状の特徴は、非常に喉が渇き、冷たい飲み物を飲みたがる。これは、君薬が石膏であるため。そして、汗が多く出て、尿量も多い。例えば糖尿病で、水を飲んで、尿量も多く、暑がるような方が典型である。このときの口渇は、頻渇と言い、一日に何回も冷たい水を飲みたがるような、強い口渇である。
・急性熱病、日射病、熱中症などで身体に熱がこもり、口渇激しく、口舌乾燥、食不味のもの。遺尿、夜尿症、糖尿病。湿疹、日光性皮膚炎などで発赤して熱を帯び、
かゆみ、熱感が強く、分泌物か湿った落屑があるもの。
※注意点
・白虎湯を煎じる時は粳米が熟して、よくふやける程度にするため、とろ火で長く煎じた方が良い。
・石膏を胃腸虚弱な者に用いると、胃腸障害を起こし、下痢を起こす事がある。
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