睡眠による脳内お掃除、認知症のお話
年齢を重ねるごとにもの忘れは増えていきます。年相応の物忘れを通り越し、日常生活や社会生活を営めない状態になると認知症と診断されます。何を食べたのか忘れるくらいであれば物忘れ、食べたこと自体を忘れてしまう場合は認知症です。また記憶力だけでなく認知症では判断力も低下してしまいます。認知機能障害が出始めている方は日本全国でおよそ400万人、65歳以上では8人に1人と言われています。最も多いのがアミロイドβタンパク質が原因とされるアルツハイマー型認知症です。
<不眠や寝不足がアルツハイマー型認知症の要因となる>
脳内のアミロイドβは睡眠中に脳から排出されるため、睡眠時間が短い方や不眠症の方は注意が必要です。近年知られるようになってきた「睡眠中の脳内のゴミ掃除」はグリンパティック系という複雑な導管システムが脳全体に張り巡らされており、睡眠中における脳の老廃物除去システムと考えられています。
<認知症と活性酸素>
不眠症、ストレス、糖尿病などの対策がそのまま認知症対策に繋がります。これらの症状があると脳内では活性酸素が多量に発生し、脳細胞を傷つけてしまします。この多すぎる活性酸素はどのように悪さをするかというと、脳内で作られるアミロイドβタンパク質を増やしてしまいます。このアミロイドβは脳内で酵素(ネプリライシンなど)によって分解されます。脳内に過剰な活性酸素があるとこれらの酵素が壊されアミロイドβが蓄積してしまいます。健康な人でもアミロイドβは作られていますが、蓄積しないように適切に処理されています。このたんぱく質は日常的に脳の中から血管へ排出されていますが、過剰な活性酸素によって排出出口が破壊され脳内に蓄積する原因となってしまいます。
<活性酸素除去や眠りを深める栄養素>
抗酸化作用が健康のキーワードとして注目されますが、これは活性酸素を除く働きをいいます。漢方ではこの抗酸化作用に優れた処方や抗酸化作用として働く体内酵素に必要な栄養素(亜鉛やセレン、銅など)などを補うことで健康をサポートしています。過剰な活性酸素が除かれることでも睡眠の質は高まりますので、睡眠中の脳のお掃除も円滑に進むと考えられます。また、漢方薬の中には蓄積した脳内タンパク質を除去する可能性のある処方も出てきており、今後の認知症治療に期待されています。
この記事の監修薬剤師
運龍堂 佐藤貴繁
略歴
1977年 北海道生まれ。北海道立札幌南高等学校
北海道大学薬学部を卒業
2003年 薬剤師免許を取得
2006年 北海道大学大学院薬学研究科生体分子薬学
専攻博士後期課程を終了後、博士(薬学)取得
2011年 福祉社会法人 緑仙会理事 就任
2012年 杜の都の漢方薬局 運龍堂 開局
2013年 宮城県自然薬研究会会長 就任
2017年 宮城県伝統生薬研究会会長 就任