2021/05/02
漢方薬一覧(フ〜ホで始まる処方)
目次
- 不換金正気散(フカンキンショウキサン)
- 茯苓飲(ブクリョウイン)
- 茯苓飲加半夏(ブクリョウインカハンゲ)
- 茯苓飲合半夏厚朴湯(ブクリョウインゴハンゲコウボクトウ)
- 茯苓沢瀉湯(ブクリョウタクシャトウ)
- 分消湯(ブンショウトウ)
- 平胃散(ヘイイサン)
- 防已黄耆湯(ボウイオウギトウ)
- 防已茯苓湯(ボウイブクリョウトウ)
- 防風通聖散(ボウフウツウショウサン)
- 補気建中湯(ホキケンチュウトウ)
- 補中益気湯(ホチュウエッキトウ)
(フカンキンショウキサン)
不換金正気散
①腹痛下痢、②頭痛悪寒、③夏季感冒
冷え性は体質性のものではなく、冷えて起こる症状に用いる。
※組成
白朮(びゃくじゅつ):キク科、補虚薬 — 補気薬/温
厚朴(こうぼく):モクレン科、化湿薬/温
陳皮(ちんぴ):ミカン科、理気薬/温
大棗(たいそう):クロウメモドキ科、補虚薬 — 補気薬/温
生姜(しょうきょう):ショウガ科、解表薬— 発散風寒薬/微温
甘草(かんぞう):マメ科、補虚薬 — 補気薬/平
〜以上、「平胃散」〜
半夏(はんげ):サトイモ科、化痰薬/温(有毒)
藿香(かっこう):シソ科、化湿薬/微温
※生薬の解説
・朮、厚朴、陳皮には下痢、腹痛を止める整腸作用がある。朮は、消化管の水を血中に吸収して下痢を止める。厚朴は下痢に伴う腹痛を止める。陳皮は下痢を伴う消化不良によって引き起こされる食欲不振を改善する。
・大棗は緊張を緩和し、補血、強壮、利尿作用がある。
・生姜は体の表面と体内を温める。さらに胃の働きを改善し、余分な水分を除く。健胃鎮嘔作用もある。
・甘草は胃腸機能を整え、緊張を取る。肺の潤いを補う。また薬物、食物の中毒を解毒し、諸薬を調和する。
・大棗、生姜、甘草の3味の組み合わせは、古来より多用されており、自律神経系の調整と自然治癒力の回復に役立っているとされている。
・平胃散は、諸臓器の湿を除いて、バランスを整える。半夏は水毒を改善し、また藿香は邪気を散ずる。この2味が平胃散に加わり、湿熱を駆逐する方剤に変化する。
※使用目標例
・通常、人が外邪に対応するには、侵入した外邪を散じたり、瀉したりする攻撃の態勢をとるか、外邪に対して負ける事の無いように、五臓のバランスを正常化して正気を充実させ強化する方法をとるかの2つの道がある。不換金正気散は、整えられた体にして正気を増した上に(そのため「正気」の名前がついている)、散邪の藿香を加えた者である。例えば、旅行中に起こる、俗にいう水あたりという吐瀉を伴う発熱が適応となる。
・中湿病、夏季感冒、急性胃腸炎、水あたり、蕁麻疹、寝汗
※注意点
・この項の冷え性は体質性のものではない。冷えて起こる症状である。
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(ブクリョウイン)
茯苓飲
①腹部膨満、②胃内に水分停滞、③嘔吐
胃内に水分が停滞することにより、腹部膨満や嘔吐を起こす者に用いる。
※組成
茯苓(ぶくりょう):サルノコシカケ科、利水滲湿薬 — 利水消腫薬/平
白朮(びゃくじゅつ):キク科、補虚薬 — 補気薬/温
人参(にんじん):ウコギ科、補虚薬 — 補気薬/微温
生姜(しょうきょう):ショウガ科、解表薬— 発散風寒薬/微温
陳皮(ちんぴ):ミカン科、理気薬/温
枳実(きじつ):ミカン科、理気薬/微寒
※生薬の解説
・白朮、茯苓ともに消化管の水や、関節内の水、筋肉内の浮腫、組織間の水など、過剰な水分を血中に吸収して利尿する。
・橘皮と枳実が蠕動を亢進して、逆蠕動や逆流を防ぎ、胃の内容物を速やかに腸に送る。橘皮と生姜は食欲を進め、健胃作用がある。
・人参は胃の痞えを除くために配合されている。
※使用目標例
・本方が適応するのは、「停痰宿水」という胃の溜飲である。これは「実」であり、一種の機能異常(ジスキネジー)に相当し、胃の緊張は十分で収縮力もあるが、通過の悪い者で、アトニーや脾胃の虚ではない。即ち、肥満や痩せとか、体力や栄養状態は全く関係ない。
・反芻症:一度飲み込んだ食物を胃液とともに口中に逆流してしまう者。食道裂孔ヘルニア(食道が通る穴が食道裂孔で、この穴を通って腹腔内にあるべき胃の一部が胸腔側へ脱出している状態を、食道裂孔ヘルニアという。自覚症状としては(1)胸やけ、(2)胸痛、(3)つかえ感が三大症状で、これは逆流性食道炎の症状と同じ)があるものに逆流現象が多いと言われるが口まで逆流するのは幽門通過障害と胃液分泌過多によることが多い。
・逆流性食道炎、逆流現象:胃の内容物の逆流現象で胃液が多い状態に茯苓飲が適用される。食道、噴門のジスキネジー、嘔吐反射、精神的ストレスによる嘔吐には、茯苓飲合半夏厚朴湯を用いる。なお、胃液の酸度が高く、食道炎を起こしたものには、茯苓飲と半夏瀉心湯の合方を用いる。
※注意点
・生姜はヒネショウガ4gを用いる方が良い。
・六君子湯を使用したいが、甘草を避けたい場合は、茯苓飲での代用を検討する。
●茯苓飲VS六君子湯 VS五苓散
茯苓飲が適応となるのは、食欲が無いわけではなく、食べたいのに入らない状態である。したがって、六君子湯の適当とは異なる。六君子湯は、寒は明らかではないが、胃の辺りに水毒が溜まって消化吸収が悪いような時に使用する(寒が明らかな場合は人参湯)。また茯苓飲証での「悪心がなく吐出する」ところは、五苓散が適応する「水逆の嘔吐」の状態に似ているが、五苓散を用いる状態は水分の吸収障害で胃や腸管内に水分が貯留しており、吐出と同時に下痢もみられ、幽門の通過障害はない。
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茯苓飲加半夏(ブクリョウインカハンゲ)
茯苓飲加半夏(ブクリョウインカハンゲ)
①腹部膨満、②悪心・嘔吐、③咽の塞がる感じ
胃内に水分が停滞することにより、腹部膨満や嘔吐を起こし、さらに悪心・嘔吐が強い物に用いる。
※組成
茯苓(ぶくりょう):サルノコシカケ科、利水滲湿薬 — 利水消腫薬/平
白朮(びゃくじゅつ):キク科、補虚薬 — 補気薬/温
人参(にんじん):ウコギ科、補虚薬 — 補気薬/微温
生姜(しょうきょう):ショウガ科、解表薬— 発散風寒薬/微温
陳皮(ちんぴ):ミカン科、理気薬/温
枳実(きじつ):ミカン科、理気薬/微寒
〜以上、「茯苓飲」〜
半夏(はんげ):サトイモ科、化痰薬/温(有毒)
※生薬の解説
・白朮、茯苓ともに消化管の水や、関節内の水、筋肉内の浮腫、組織間の水など、過剰な水分を血中に吸収して利尿する。
・橘皮と枳実が蠕動を亢進して、逆蠕動や逆流を防ぎ、胃の内容物を速やかに腸に送る。橘皮と生姜は食欲を進め、健胃作用がある。
・人参は胃の痞えを除くために配合されている。
・半夏には中枢性の鎮嘔制吐作用、鎮咳作用があり、生姜には末梢性の制吐作用がある。半夏と生姜で、プリンペラン(D2受容体ブロックによって脳内嘔吐中枢を抑制し、吐き気を抑える)やナウゼリン(吐き気の抑制と胃腸の排出機能を正常化させる)類似作用がある。
※使用目標例
・茯苓飲証で、悪心してゲップ、胸やけが多いものを目標とする(茯苓飲証よりやや陰証、水毒の目立つ症状)。茯苓飲証は、胃にガスと停水が充満して食べられなく、時々胃内の「きみず」が逆流して吐く物だが、症状は比較的静的である。茯苓飲加半夏証は、気の動揺があり、悪心やゲップ、腹鳴などの動的な症状を伴うようになったものである。
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(ブクリョウインゴハンゲコウボクトウ)
茯苓飲合半夏厚朴湯
①胃もたれ、②胸やけ・嘔吐、③不安感
抑うつ感や不安感を和らげるとともに、胃の働きをよくして水分の停滞を改善する。
※組成
茯苓(ぶくりょう):サルノコシカケ科、利水滲湿薬 — 利水消腫薬/平
白朮(びゃくじゅつ):キク科、補虚薬 — 補気薬/温
人参(にんじん):ウコギ科、補虚薬 — 補気薬/微温
生姜(しょうきょう):ショウガ科、解表薬— 発散風寒薬/微温
陳皮(ちんぴ):ミカン科、理気薬/温
枳実(きじつ):ミカン科、理気薬/微寒
以上、茯苓飲
半夏(はんげ):サトイモ科、化痰薬/温(有毒)
厚朴(こうぼく):モクレン科、化湿薬/温
蘇葉(そよう)= 紫蘇葉(しそよう):シソ科、解表薬 — 発散風寒薬/温
半夏厚朴湯=半夏、茯苓、厚朴、蘇葉、生姜(茯苓と生姜は茯苓飲と重複)
※生薬の解説
・白朮、茯苓ともに消化管の水や、関節内の水、筋肉内の浮腫、組織間の水など、過剰な水分を血中に吸収して利尿する。
・橘皮と枳実が蠕動を亢進して、逆蠕動や逆流を防ぎ、胃の内容物を速やかに腸に送る。橘皮と生姜は食欲を進め、健胃作用がある。
・人参は胃の痞えを除くために配合されている。
・半夏と厚朴には食道、腸管、気管支の痙攣を止める作用がある。厚朴はクレーラ様作用があり、食道、噴門の痙攣を緩める。腸の痙攣による腹痛、腹満、しぶり腹(残便感があり、繰り返し腹痛を伴い便意をもよおすもの)にも効果がある。また、半夏は鎮咳、鎮嘔、粘液を溶解して痰を除く去痰作用のほかに鎮静作用があり、厚朴の作用を助けて、平滑筋の痙攣を緩める作用がある。
・半夏には中枢性の鎮嘔制吐作用、鎮咳作用があり、生姜には末梢性の制吐作用がある。半夏と生姜で、プリンペラン(D2受容体ブロックによって脳内嘔吐中枢を抑制し、吐き気を抑える)やナウゼリン(吐き気の抑制と胃腸の排出機能を正常化させる)類似作用がある。
・蘇葉は、気分を晴れやかにして、半夏や厚朴の制吐作用、鎮咳作用を助ける。
・半夏、生姜、茯苓の3味で小半夏茯苓湯となり、悪心、嘔吐を抑える作用がある。
※使用目標例
・半夏厚朴湯と茯苓飲の証を兼ねたものが目標となる。平素より胃腸が弱く、アトニー体質で、疲れ易く、足が冷える。口舌は湿潤していて舌苔はない。大便は不定、小便は近い。神経質で不安感が強い。こんな人で胸部、胃部に停滞膨満感、咽頭部に異物感、発作性の心悸亢進、取り越し苦労、不安感を訴えるもの。悪心嘔吐を伴う事もある。食欲不振、頭痛、眩暈を訴える事もある。
・逆流性食道炎、逆流現象:胃の内容物の逆流現象で胃液が多い状態に茯苓飲が適用される。食道、噴門のジスキネジー、嘔吐反射、精神的ストレスによる嘔吐には、茯苓飲合半夏厚朴湯を用いる。なお、胃液の酸度が高く、食道炎を起こしたものには、茯苓飲と半夏瀉心湯の合方を用いる。
・胃下垂、胃アトニー、慢性胃炎、胃腸神経症、神経性胃弱、食道ジスキネジア、逆流性胃炎、アカラジア(食道下端の筋層の運動障害のためこの部分の食道壁が弛緩しなくなって起こる。通過障害を起こして胸部食道が拡張し、さらにS字状に蛇行することがある。これを食道アカラジアといい、この運動障害は食道下端の固有筋層内の神経叢(アウエルバッハ神経叢)の神経細胞が変性したために起こるといわれている。症状は、この部分が狭窄して通過障害となり、嘔吐や体重減少がみられます。治療は、保存的な薬物療法としては、筋肉の緊張をとるカルシウム拮抗薬(通常、降圧薬として用いられる)などを服用する。)、咽頭喉頭食道神経症、ヒステリー、不安神経症、神経衰弱
※注意点
・枳実、厚朴が入っているので、アトニータイプといっても全身的なものではない。合方していない茯苓飲からみると虚証には違いない。
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(ブクリョウタクシャトウ)
茯苓沢瀉湯
①嘔吐、②口渇、③のぼせ
胃内停水による嘔吐、口渇に用いる。
※組成
茯苓(ぶくりょう):サルノコシカケ科、利水滲湿薬 — 利水消腫薬/平
白朮(びゃくじゅつ):キク科、補虚薬 — 補気薬/温
桂枝(けいし):クスノキ科、解表薬 — 発散風寒薬/温
甘草(かんぞう):マメ科、補虚薬 — 補気薬/平
〜以上、「苓桂朮甘湯」〜
沢瀉(たくしゃ):オモダカ科、利水滲湿薬 — 利水消腫薬/寒
生姜(しょうきょう):ショウガ科、解表薬— 発散風寒薬/微温
※生薬の解説
・白朮、茯苓、桂枝は消化管の水や、関節内の水、筋肉内の浮腫、組織間の水など、過剰な水分を血中に吸収して利尿する。また桂枝は脳の血行を良くする。
・桂枝は、腎血流量を良くして利尿を助ける。
・茯苓、桂枝、甘草は心悸亢進を鎮静する。
・甘草は急迫を緩和するとされ、脾胃を補い、肺を潤して毒を除き、諸薬を調和する。
・沢瀉は腎臓での再吸収を抑制して血中の過剰の水分を尿として排出する。
・生姜は風寒を散し、胃気を益し、中を温め、湿を除く。健胃鎮嘔作用もある。
※使用目標例
・平素より胃内停水があり、胃部に停滞感や腹水音があり、そのため消化機能が低下し、食後何時間もたってから、それを吐き出し、その後口渇を訴えて水を飲むのが目標である。胃中に停水があるのに、全身に巡らず、停水を吐いてしまったので、また口渇が起こるのである。
・のぼせ、めまい、頭痛、心悸亢進、胸やけ、胃痛、小便不利(尿の量や回数の少ないとき、あるいは尿が全然出ない状態のことをいう)、小便自利(小便の良く出る者を言う。小便が出すぎる者の事、小便の出が悪いはずなのに反って出の好い者の事も小便自利と言う。)などの症状を伴う事がある。
・胃炎、胃アトニー、胃下垂、胃拡張、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、幽門狭窄、つわり、小児吐乳。
※注意点
・生姜はヒネショウガを使った方が良い。
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(ブンショウトウ)
分消湯
①消化器の衰弱、②腹満、③下肢浮腫
体力のある初期の処方で、むくみがあり、尿量が少ない場合に用いられる。
※組成
猪苓(ちょれい):サルノコシカケ科、利水滲湿薬 — 利水消腫薬/平
茯苓(ぶくりょう):サルノコシカケ科、利水滲湿薬 — 利水消腫薬/平
沢瀉(たくしゃ):オモダカ科、利水滲湿薬 — 利水消腫薬/寒
白朮(びゃくじゅつ):キク科、補虚薬 — 補気薬/温
〜以上、「四苓湯」〜
厚朴(こうぼく):モクレン科、化湿薬/温
陳皮(ちんぴ):ミカン科、理気薬/温
生姜(しょうきょう):ショウガ科、解表薬— 発散風寒薬/微温
香附子(こうぶし):カヤツリグサ科、理気薬/平
枳実(きじつ):ミカン科、理気薬/微寒
大腹皮(だいふくひ):シュロ科、理気薬/微温
縮砂(しゅくしゃ)= 砂仁(しゃにん):ショウガ科、化湿薬/温
木香(もっこう):キク科、理気薬/温
灯心草(とうしんそう):イグサ科、利水滲湿薬 — 利尿通淋薬/微寒
※生薬の解説
・朮、厚朴、陳皮には下痢、腹痛を止める整腸作用がある。朮は、消化管の水を血中に吸収して下痢を止める。厚朴は下痢に伴う腹痛を止める。陳皮は下痢を伴う消化不良によって引き起こされる食欲不振を改善する。
・陳皮は湿を取り、痰を化して、胃を温めて腹満を除く。
・生姜は内部を温める温裏作用を持つ。また生姜は胃中の湿を除く。
・白朮、茯苓ともに消化管の水や、関節内の水、筋肉内の浮腫、組織間の水など、過剰な水分を血中に吸収して利尿する。
・猪苓と沢瀉は腎臓での再吸収を抑制して血中の過剰の水分を尿として排出する。
・香附子は、気分の滞りを散じ、血を巡らす。
・枳実には理気によって気結・欝滞を散開する破気の作用がある。
・大腹皮は沢瀉とともに、腸内の水滞を除き、利尿をはかる。
・縮砂は、独特の香気を持ち、芳香性健胃薬として多用されている。脾胃を温めて停滞を通じる。消化不良、腰痛、嘔気に効果がある。
・木香は、気を巡らし止痛する。また胃腸系を温めて調える。
・灯心草は、炎症を取り、利尿を促し、膀胱炎、腎炎、浮腫を治す。
※使用目標例
・消化器の機能が衰弱して腸満を発し、腸が張って苦しむもの。
・ネフローゼ症候群(高度の蛋白尿により低蛋白血症を来す腎臓疾患群の総称。)、胃腸症状のある水腫、腹水、下肢浮腫。肝硬変、慢性胃炎、滲出性腹膜炎
※注意点
・分消湯の主体となっている平胃散は、瀉剤に属しているので、陰証には瀉下剤を使わない常識を考え、気をつけなければならない。
・分消湯は体力のある初期の処方である。もし鼓腸で衰弱している者には、補気建中湯を考える。
・ネフローゼの使用には、「四肢顔面の浮腫は軽度で、腹水が著名で、腹部は堅く膨満し、脈は沈で緊張の良いもの」と指示がある。
・桃仁、紅花、大黄、冬葵子、附子、乾姜、肉桂、枳実は、妊婦に慎重に投与すべき生薬である。
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(ヘイイサン)
平胃散
①腹部膨満、②腹鳴、③胃の消化力低下
胃の消化力が低下して、腹部膨満や腹鳴を起こす者に用いる。
※組成
白朮(びゃくじゅつ):キク科、補虚薬 — 補気薬/温
厚朴(こうぼく):モクレン科、化湿薬/温
陳皮(ちんぴ):ミカン科、理気薬/温
大棗(たいそう):クロウメモドキ科、補虚薬 — 補気薬/温
生姜(しょうきょう):ショウガ科、解表薬— 発散風寒薬/微温
甘草(かんぞう):マメ科、補虚薬 — 補気薬/平
(白朮の代わりに蒼朮を使用する場合あり)
脾胃に片寄った湿滞を平にするという意味で、平胃散と名付けられた。
※生薬の解説
・朮、厚朴、陳皮には下痢、腹痛を止める整腸作用がある。朮は、消化管の水を血中に吸収して下痢を止める。厚朴は下痢に伴う腹痛を止める。陳皮は下痢を伴う消化不良によって引き起こされる食欲不振を改善する。
・陳皮は湿を取り、痰を化して、胃を温めて腹満を除く。また生姜は胃中の湿を除く。
・生姜と甘草は内部を温める温裏作用を持つ。
・大棗、甘草は諸薬を調和する。
※使用目標例
・飲食が過ぎて消化しきれず心下に滞り、また食後に腹鳴したり、水瀉性の下痢になったりするものが目標となる。過飲食による下痢や胃の痞えに。
・平胃散は朮という下痢止めの薬と、厚朴という腹痛を止める薬に、陳皮という食欲を増す薬を配合した方剤で、下痢して腹痛する小腸性下痢に対して用いる基本処方である。水様性下痢には、五苓散を合方して用いる。実際には、平胃散単独では、あまり効かない場合が多く、五苓散と合方することで、利水作用が一気に活気づく。平胃散と五苓散が合方されている胃苓湯の使用も考える。
・飲食が過ぎて消化しきれず、胃がもたれて、胃内停水が下流して腹鳴したり、水瀉性の下痢になったりする者が目標となる。
・水あたり、ビールの過飲による下痢、慢性胃炎、急性胃炎、胃拡張
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(ボウイオウギトウ)
防已黄耆湯
①水太り体質、②色白、③変形性関節症
色白で水太り体質の婦人で、変形性関節症のある者に用いる。
※組成
防已(ぼうい):ツヅラフジ科、怯風湿薬/寒
黄耆(おうぎ):マメ科、補虚薬 — 補気薬/微温
白朮(びゃくじゅつ):キク科、補虚薬 — 補気薬/温
大棗(たいそう):クロウメモドキ科、補虚薬 — 補気薬/温
生姜(しょうきょう):ショウガ科、解表薬— 発散風寒薬/微温
甘草(かんぞう):マメ科、補虚薬 — 補気薬/平
※生薬の解説
・防已には、利尿作用があり、重力の作用で下に溜まる水を除き(下腿浮腫)、また消炎作用がある。黄耆は皮膚、四肢、顔面の浮腫を利尿作用により除き、自汗を止める作用がある。白朮にも、利尿作用があり、関節内の水や、浮腫の水を血中に吸収して利尿する。
・大棗—生姜は、胃腸を温め、機能を整える。
・生姜と甘草は内部を温める温裏作用を持つ。また甘草は諸薬を調和する。
・生姜は風寒を散し、胃気を益し、中を温め、湿を除く。健胃鎮嘔作用もある。
・甘草は急迫を緩和するとされ、脾胃を補い、肺を潤して毒を除き、諸薬を調和する。・大棗、生姜、甘草の3味の組み合わせは、古来より多用されており、営衛の調和、すなわち自律神経系の調整と自然治癒力の回復に役立っているとされている。
※使用目標例
・防已黄耆湯証は、水太りタイプでむくみ易くて、時に足、膝などに水がたまったり、そして暑がりで寒がり、汗っかきというタイプ。虚証なので、しまりがなく、仰向けになると大きなお腹が横に広がる。水がたまり易い傾向なので尿不利ではあるが、口渇を訴える事は少ない。
・多汗症、浮腫や希薄な分泌物を伴う皮膚病。わきが。肩こり。
・下肢の浮腫(身重、中年の肥満した水太りの婦人に多い)、腎炎、ネフローゼの水腫、多汗症、水太りの風邪などに用いられる。感冒などの後に、寒気と熱がとれず、汗が出て、体がだる重く、頭痛や体のあちらこちらが痛み、小便の出が悪いもの。
・冷え症なのに温剤が効かないもの。
・変形性膝関節症では、膝に水がたまる事が多く、そのような場合に使用される。毛細血管の拡張や関節の変形が明らかであれば、駆瘀血剤の桂枝茯苓丸を用いる事が圧倒的に多いが、防已黄耆湯と桂枝茯苓丸の合方も効果的である。
※注意点
・防已は、黒みを帯びて質の軽いもの(漢防已)と黄白色で質重く粉が詰まっているもの(粉防已)とがあるが、本方では漢防已を使用する。
・防已黄耆湯の浮腫は深いところ、防已茯苓湯の浮腫は皮水だから浅いところであるという。
・防已黄耆湯証は色白の人が多いと言われるが、こだわる必要はない。
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(ボウイブクリョウトウ)
防已茯苓湯
①肥満、②便秘、③実証
身体の中にたまった不要な毒を体外に排出する効能がある。肥満症の治療に用いる。
※組成
防已(ぼうい):ツヅラフジ科、怯風湿薬/寒
黄耆(おうぎ):マメ科、補虚薬 — 補気薬/微温
桂枝(けいし):クスノキ科、解表薬 — 発散風寒薬/温
茯苓(ぶくりょう):サルノコシカケ科、利水滲湿薬 — 利水消腫薬/平
甘草(かんぞう):マメ科、補虚薬 — 補気薬/平
※生薬の解説
・防已には、利尿作用があり、重力の作用で下に溜まる水を除き(下腿浮腫)、また消炎作用がある。黄耆は皮膚、四肢、顔面の浮腫を利尿作用により除き、自汗を止める作用がある。
・桂枝、黄耆は体表の血行を良くし虚を補い、水腫を去り、肌肉を引き締めて汗を止める。
・茯苓の滲出性利尿作用は肌肉の痙攣を鎮め桂枝と組んで皮水を去る。
・甘草は急迫を緩和するとされ、脾胃を補い、肺を潤して毒を除き、諸薬を調和する。
※使用目標例
・四肢や身体が浮腫して、水腫は皮下組織にあって、四肢の筋肉や皮膚が痙攣的に収縮して震えるものに用いる。これは末梢部の血行障害や代謝障害が関与していると考えられる。運動面だけではなく、知覚面の障害も伴うので、麻痺、しびれ、疼痛、冷感を訴えるものが多い。浮腫は手足に多く、体部には少ない。のぼせ、嘔吐、下痢を伴う事もある。
・腎炎、ネフローゼ、妊娠腎、尿毒症などで手足に腫れがあるもの。振戦麻痺、手や足のしびれ、むくみ
・下痢がなかなか治まらず、利水剤を使っても効かない場合、防已茯苓湯が効く時がある。
※注意点
・防已は、黒みを帯びて質の軽いもの(漢防已)と黄白色で質重く粉が詰まっているもの(粉防已)とがあるが、本方では漢防已を使用する。
・防已黄耆湯の浮腫は深いところ、防已茯苓湯の浮腫は皮水だから浅いところであるという。
・パーキンソン病に試している例があるが、成功していない。
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(ボウフウツウショウサン)
防風通聖散
①便秘、②慢性気管支炎、③太鼓腹(水毒、脂ぎったタイプ)
体の熱をさまし、病因を発散させるような働きがある。また、体の水分循環を改善し、便通をつける作用もある。
※組成
当帰(とうき):セリ科、補虚薬 — 補血薬/温
芍薬(しゃくやく):ボタン科、補虚薬 — 補血薬/微寒
川芎(せんきゅう):セリ科、活血化瘀薬 —活血止痛薬/温
山梔子(さんしし):アカネ科、清熱薬 — 清熱瀉火薬/寒
荊芥(けいがい):シソ科、解表薬 — 発散風寒薬/微温
防風(ぼうふう):セリ科、解表薬 — 発散風寒薬/微温
連翹(れんぎょう):スイカラズ科、清熱薬 — 清熱解毒薬/寒
薄荷(はっか):シソ科、解表薬 — 発散風熱薬/涼
生姜(しょうきょう):ショウガ科、解表薬— 発散風寒薬/微温
麻黄(まおう):マオウ科、解表薬 — 発散風寒薬/温
白朮(びゃくじゅつ):キク科、補虚薬 — 補気薬/温
桔梗(ききょう):キキョウ科、化痰薬/平
黄芩(おうごん):シソ科、清熱薬 — 清熱燥湿薬/寒
石膏(せっこう):硫酸カルシウム、清熱薬 — 清熱瀉火薬/大寒
滑石(かっせき):ケイ酸塩類、利水滲湿薬 — 利尿通淋薬/寒
〜以下、「調胃承気湯」〜
大黄(だいおう):タデ科、瀉下薬 — 攻下薬/寒
芒硝(ぼうしょう):硫酸ナトリウム、瀉下薬 — 攻下薬/寒
甘草(かんぞう):マメ科、補虚薬 — 補気薬/平
※生薬の解説
・当帰と川芎には、皮膚、筋肉、関節、骨、神経などの外部や経路を温める作用があり、外表、四肢末梢の血行を促進して冷え性を治す。また動脈の血流を良くして(活血作用)、駆瘀血の作用を助ける。当帰は主に四肢、下半身の血流を良くして冷え性を治す。川芎は主に上半身の血流を良くして頭痛を治す。
・芍薬には、筋肉の異常緊張を和らげる作用がある。また血液成分の中の水分を利水する。
・山梔子は、五臓の熱を冷ます。
・荊芥、防風、連翹の3味は葛根のように表寒を発散し、清熱をするグループ「荊防連」と呼ばれている。皮膚の熱と毒を発散して、諸薬を表に働かせる。また麻黄にも発汗作用がある。
・薄荷は憂鬱感や精神的な原因による胸の痞えや胸肋の膨満感を治す。
・生姜は風寒を散し、胃気を益し、中を温め、湿を除く。健胃鎮嘔作用もある。
・桔梗には、去痰排膿作用があり(ビソルボン類似作用=「痰をうすめて粘りをとり、吐き出しやすくする。また、気道粘膜の線毛運動をよくして、痰の排出を助ける。」)、甘草と組んで咽頭を治す消炎作用がある。
・黄芩は、横隔膜前後の熱を冷ます。
・ 石膏は、熱を冷ます作用があり、太陽病でも、熱が強い病態に適応となる。
・ 滑石は消化管の水を血中に吸収し、さらに熱を制して熱毒を治す。
・大黄と芒硝には消炎解熱作用がある。大黄には瀉下作用があり、また駆瘀血薬とともに用いて瘀血の排除を助ける作用がある。芒硝は腸管内に水分を蓄える働きがある。また芒硝は、現在使用されているのは、乾燥硫酸ナトリウムで塩類下剤である。熱を冷ます性質が強い(薬性は大寒)。
・甘草は、清熱解毒作用を持ち、諸薬を調和する。また瀉下による腹痛を緩和する。
※使用目標例
・臓毒証体質の治療に用いる。臓毒証体質とは、皮膚の色が黄白色、体格は一般に骨格たくましく、脂肪型、筋肉型である。重役腹の脂ぎったタイプと考えて間違いない。顔色については、皮膚の色、顔の色が強く、また赤色を帯びるのは瘀血を兼ねている。瘀血を兼ねている場合は、通導散のような駆瘀血剤を併用する。
・毒とは、風毒、食毒、梅毒、水毒を言っている。この毒を内に蔵していると、高血圧、脳卒中、慢性腎炎、リウマチ、頭部湿疹、円形脱毛症、酒渣鼻、痔瘻、蓄膿症、喘息、糖尿病、脚気、諸皮膚病などにかかりやすいという。
・肥満体質の改善、常習便秘、高血圧症、脳卒中、脳梗塞の予防と治療、慢性腎炎、糖尿病、リウマチ、脚気、円形脱毛症、頭部湿疹、痔瘻、諸皮膚病
※注意点
・皮膚病に応用する際、一時的に悪化することがある。これは防風通聖散の発表力によるものであるから、あらかじめ患者に伝えた方が良い。
・処方に、阿膠、膠飴、芒硝などを入れるときは煎じた薬液に入れて溶解させる。
・妊娠しているものや、虚弱者には用いない。
・メタボと言われている人でも、体がしまっている人には水毒は少ないとして、大柴胡湯を選ぶように考える。
・山梔子を胃腸虚弱な者に用いると、胃腸障害を起こし、下痢を起こす事がある。
・桃仁、紅花、大黄、冬葵子、附子、乾姜、肉桂、枳実は、妊婦に慎重に投与すべき生薬である。
・石膏を胃腸虚弱な者に用いると、胃腸障害を起こし、下痢を起こす事がある。
・当帰を胃腸虚弱な者に用いると、胃腸障害を起こし、下痢を起こす事がある。
・大黄の妊娠中の投与に関する安全性は確立していない。投与により流早産の危険性があるので、妊婦または妊娠している可能性のある婦人には投与しない事が望ましい。また大黄中のアントラキノン誘導体が母乳中に移行し、乳児が下痢を起こす事があるので、授乳中の婦人には慎重に投与すること。
・芒硝の妊娠中の投与に関する安全性は確立していない。投与により流早産の危険性があるので、妊婦または妊娠している可能性のある婦人には投与しない事が望ましい。
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(ホキケンチュウトウ)
補気建中湯
①胃腸虚弱、②鼓腸、③全身衰弱
胃虚と胃痛停水を去り、気の停滞を巡らして水腫を去る。
※組成
人参(にんじん):ウコギ科、補虚薬 — 補気薬/微温
白朮(びゃくじゅつ):キク科、補虚薬 — 補気薬/温
茯苓(ぶくりょう):サルノコシカケ科、利水滲湿薬 — 利水消腫薬/平
陳皮(ちんぴ):ミカン科、理気薬/温
黄芩(おうごん):シソ科、清熱薬 — 清熱燥湿薬/寒
厚朴(こうぼく):モクレン科、化湿薬/温
沢瀉(たくしゃ):オモダカ科、利水滲湿薬 — 利水消腫薬/寒
麦門冬(ばくもんとう):ユリ科、補虚薬 — 補陰薬/微寒
※生薬の解説
・人参と白朮には胃腸機能を改善し、元気をつけて補う作用がある。白朮には胃内の停水を除き、人参と組んで弛緩した胃腸を引き締める作用がある。
・人参には、造血作用と胃酸を増加させる作用がある。
・白朮、茯苓ともに消化管の水や、関節内の水、筋肉内の浮腫、組織間の水など、過剰な水分を血中に吸収して利尿する。
・朮、厚朴、陳皮には下痢、腹痛を止める整腸作用がある。朮は、消化管の水を血中に吸収して下痢を止める。厚朴は下痢に伴う腹痛を止める。陳皮は下痢を伴う消化不良によって引き起こされる食欲不振を改善する。
・ 陳皮は湿を取り、痰を化して、胃を温めて腹満を除く。
・黄芩は、横隔膜前後の熱を冷ます。また消炎解熱作用を持つ。
・沢瀉は腎臓での再吸収を抑制して血中の過剰の水分を尿として排出する。
・麦門冬は粘液質に富み、肺を潤して清熱去痰の効果がある。
※使用目標例
・補気建中湯は、胃虚と胃痛停水を去り、気の停滞を巡らして水腫を去る事を主眼にしている。
・胃腸虚弱で食欲がなく、全身衰弱して鼓腸が現れたものを目標とする。
・肝硬変、慢性腹膜炎、慢性腎炎、ネフローゼ、心臓疾患、慢性下痢症などの諸疾患に伴う腹水、浮腫に用いる。
※注意点
・虚証ではあるが、附子剤まで至っていない場合に使用する。
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(ホチュウエッキトウ)
補中益気湯
①手足倦怠、②食欲不振、③胃腸虚弱
虚証で元気が衰えて、食欲が無い者に用いる。胃炎、慢性肝炎、病後の衰弱に用いる。
※組成
人参(にんじん):ウコギ科、補虚薬 — 補気薬/微温
白朮(びゃくじゅつ):キク科、補虚薬 — 補気薬/温
大棗(たいそう):クロウメモドキ科、補虚薬 — 補気薬/温
生姜(しょうきょう):ショウガ科、解表薬— 発散風寒薬/微温
甘草(かんぞう):マメ科、補虚薬 — 補気薬/平
〜以上、「四君子湯」−「茯苓」〜
黄耆(おうぎ):マメ科、補虚薬 — 補気薬/微温
当帰(とうき):セリ科、補虚薬 — 補血薬/温
陳皮(ちんぴ):ミカン科、理気薬/温
柴胡(さいこ):セリ科、解表薬 — 発散風熱薬/微寒
升麻(しょうま):キンポウゲ科、解表薬 — 発散風熱薬/微寒
※生薬の解説
・補中益気湯の主薬は補気薬の黄耆で、これに升堤(内から外に引き上げる作用)の柴胡、升麻を配合し、さらに人参、白朮、甘草などといった補気薬を加えている。
・黄耆、柴胡、升麻などは筋肉のトーヌスを正常化させる升堤作用があり、筋肉のアトニー状態を改善させる。
・黄耆は体力が低下して少し動くと汗がでる自汗を改善し、当帰を併用して自汗、盗汗を治すとともに、肉芽の発育を促進して潰瘍の治癒を早める作用がある。
・当帰には、皮膚、筋肉、関節、骨、神経などの外部や経路を温める作用があり、外表、四肢末梢の血行を促進して冷え性を治す。また動脈の血流を良くして(活血作用)、駆瘀血の作用を助ける。当帰は主に四肢、下半身の血流を良くして冷え性を治す。
・柴胡は、イライラ、緊張、不安、憂鬱などの精神的ストレスを解消する。「疎肝解鬱」の作用があり、ストレスに伴う自律神経支配領域の運動機能異常や、背部、胸脇部の筋緊張による膨満感、違和感、凝りなどを治す。また、女性の精神的ストレスによる月経痛、乳房腫瘍にも有効である。
・人参、生姜、甘草は胃の調子を整える。
・生姜は風寒を散し、胃気を益し、中を温め、湿を除く。健胃鎮嘔作用もある。
・大棗は脾胃を補い、気を整え、精神安定作用を持つ。また大棗と甘草は諸薬を調和する。
※使用目標例
・補中益気湯の第一目標は手足倦怠で、この症状が無いときは別の処方を考えた方が良い。
・補中益気湯 = 小柴胡湯の虚の人向けの変形バージョン
従って、補中益気湯は風邪薬の一種である、また普段使いも良く出来る。
・下腹部筋・骨盤筋群強化作用が優れているので、「くしゃみをすると尿が漏れる」という腹圧性尿失禁には、補中益気湯を適用する。
・体力がまだ残っているときの処方で、体外より気を補するというのではなく、落ち込んでいる元気を引っ張り上げる(升堤)という処方である。従って残っている元気が少なければ、かえってしんどくなるという。こんな場合、十全大補湯だろう。
・肉体的、精神的疲労に用いる。手足がだるい、体がくたびれたという時に最も応ずる。急性疲労には体力の有無に関わらず用いる。虚弱者の慢性疲労には回復するまで連用させる。
・柴胡と升麻が気を引き上げるので、低血圧、たちくらみ、内臓下垂、痔(脱肛)、下痢など、補中益気湯は色々なものが「落ち込む」ものに使える。
・病後(食欲不振、吐き気がある時は六君子湯を用いる)、手術の前後、夏負け、妊娠中や産後に用いる。妊娠中は虚弱者、アトニー体質の陣痛美弱や弛緩性出血の予防目的で使用する。低蛋白血症、貧血の立ちくらみ、耳鳴り、心悸亢進あるいは妊娠浮腫、妊娠中毒症などの予防と治療には当帰芍薬散を合方して用いる。産後の体力回復には芎帰調血飲第一加減を合方して用いる。
・眼精疲労、弱視:体力や筋力が虚弱なものは、眼筋も弱く疲労しやすい。近業をすると眼精疲労を起こして、調整に時間がかかりピントがあいにくい者に用いる。
・機能性胃腸症:消化管の筋緊張や運動が低下し、食欲不振、腸内ガス排出が不十分なための腹部膨満感や弛緩性便秘などが認められる時に用いる。
・括約筋の緊張低下:肛門括約筋、膀胱括約筋の緊張低下があると、尿や便をもらし、トイレを我慢出来ない事が多く、尿や便の失禁が認められ、このような状態に用いる。また括約筋の弛緩による脱肛にも用いる。
・子宮脱:子宮支持組織の弛緩による子宮の脱垂に用いる。
・抗生物質、抗がん剤、消炎剤による肝障害、胃腸障害、貧血などの予防に用いる。人参湯、六君子湯、小柴胡湯などでも良い。下痢をする時は五苓散を併用する。
・放射線、コバルト照射の副作用を抑え、元気に治療を完了することが出来る。
※注意点
・虚候の甚だしいときは、生脈散合方の意味で、五味子、麦門冬湯を別添する(味麦益気湯)。胃腸疾患には芍薬、茯苓各3gを別添する(調中益気湯)。
・肛門脱出には赤石脂湯の意味で、赤石脂10gを別添する。
●補中益気湯VS通導散VS消風散
アトピー性皮膚炎の患者は腸管の環境が悪いために免疫異常を起こしていると考えられる。漢方では、補中益気湯と通導散の二つがこの腸管の環境を良くして免疫異常を改善すると考えられる。補中益気湯は主に小児に比較的大量に用いる。腸の環境を良くして消化吸収機能と免疫機能を改善する作用があるため、アトピー性皮膚炎に効果があると考えられる。成人型で肥厚、色素沈着があり、うっ血が強く、顔面、頸部などがびらん性に暗赤色を呈し、西洋医学的治療に抵抗する者に対しては、駆瘀血作用のある通導散合桂枝茯苓丸を用いる。また、アトピー性皮膚炎は基本的に湿疹、皮膚炎であり、この皮疹に対する治療は消風散を中心に用いる。さらに湿潤型や夏期増悪型には、消風散を増量し、乾燥型や冬季増悪型には、十味排毒散や温清飲を消風散に合方して用いる。
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