寝苦しい夜には黄連解毒丸(おうれんげどくがん)でクールダウン!
まだ梅雨入り前ですが、すでに夏日を記録している地域もあります。特にコンクリートに覆われた地域では日中の熱が夜になっても残り、熱帯夜になってしまいます。漢方では身体に悪影響を及ぼすものを「邪(じゃ)」ととらえます。暑さはまさに熱邪(ねつじゃ)となり、身体に様々な影響を与えます。ただでさえ日中の暑さから体力が奪われるこの季節に、熱帯夜で眠れないとなると、日に日に疲れがたまってしまいます。ここではそんな熱帯夜にお勧めの漢方処方をご紹介していきます。
<黄連解毒丸とは>
黄連(おうれん)、黄芩(おうごん)、黄柏(おうばく)、山梔子(さんしし)の4つから成る処方です。煎じて使う黄連解毒湯や、これらの生薬を丸剤、散剤にしたものがありますが基本的な効能効果は同じです。丸剤はゆっくり溶けて効き目が長く持続しやすい特徴があります。すべて清熱の生薬から成り、身体の六腑の一つである三焦にそれぞれの生薬が効きます。三焦は上焦(横隔膜より上)、中焦(上腹部)、下焦(へそから下)に分かれます。黄芩は「肺(はい)」や上焦、黄連は「心(しん)」や中焦、黄柏は「腎(じん)」と下焦の熱邪を、山梔子は五臓(肝・心・脾・肺・腎)の遊火を瀉すとされています。
<熱帯夜と黄連解毒丸>
黄連解毒丸は体の熱を冷まし、精神状態を落ち着かせる作用があります。「心」は精神面の統制も行っており、「心」に熱がこもるとその熱は体の上方(頭部など)へ昇っていきます。それによって顔面紅潮・充血・鼻血・興奮状態・不眠などが起こる場合があります。そのため熱帯夜の不眠に限らず、心が熱をもってしまいイライラやのぼせ、高血圧が起こっている場合にも用いることがあります。丸剤ですので、服用量を少量から始めることもできます。これらの症状がある場合はぜひ試してみてください。また、お酒を飲んだ際にも肝に熱がこもるので、その熱を抜くためにも使えますので二日酔い防止にも役立ちます。
<漢方から見た睡眠とは>
覚醒と睡眠のリズムは陽気と陰気の二極性で考えることができます。昼と夜の関係も陽と陰の関係です。私たちの身体は昼は陽気に支配され、夜は陰気に支配されます。身体で活動していた陽気は夜になると「肝」「心」の「血(けつ)」に取り込まれ、反対に肝心に眠っていた陰気が出てきて睡眠中の身体を支配します。そして朝になると再び、陽気と陰気入れ替わります。眠れない主な原因はこの陰陽のバランスが崩れていると考えることができます。陽とは「熱」で、陰とは「冷」でもあります。夜に身体に余計な熱(陽)があると眠れないわけです。実際に西洋医学的にも寝ているときは体温が低下することがわかっています。特にノンレム睡眠(深い睡眠)や、さらに眠りが深い「徐波睡眠」では、体温の低下が大きくなります。
<深く眠るためには>
眠れない原因として虚証と実証が考えられます。「肝」「心」の「血(けつ)」に陽気、陰気が交互に取り込まれることで覚醒と睡眠が切り替わります。陽気・陰気を取り込む「血力」が落ちている虚証では深い眠りは作れません。陽気(熱)が大きすぎる実証には黄連解毒丸で熱邪を解消するのは良い方法ですが、身体の気血が不足している虚証の場合にはしっかりと滋養強壮し、睡眠を深くすることも大切です。熱帯夜のような熱邪以外にも眠りを妨げる原因はたくさんあります。身体の痛み、痒み、精神的なストレス、呼吸機能の問題、頻尿など、漢方で対応可能なトラブルはたくさんありますので、あてはまる方はそちらもぜひご相談いただければと思います。人生の三分の一は睡眠時間です。有意義な睡眠を作っていきましょう。
この記事の監修薬剤師
運龍堂 佐藤貴繁
略歴
1977年 北海道生まれ。北海道立札幌南高等学校
北海道大学薬学部を卒業
2003年 薬剤師免許を取得
2006年 北海道大学大学院薬学研究科生体分子薬学
専攻博士後期課程を終了後、博士(薬学)取得
2011年 福祉社会法人 緑仙会理事 就任
2012年 杜の都の漢方薬局 運龍堂 開局
2013年 宮城県自然薬研究会会長 就任
2017年 宮城県伝統生薬研究会会長 就任