


【漢方専門薬剤師監修】漢方薬がなぜ効くのかを科学的視点から解説

1,400年以上前に中国から日本へと伝わった漢方薬は、長い年月をかけて日本人の身体や生活環境に合うように発展を遂げました。
しかし、漢方薬は自然由来の生薬が原料であるため、西洋薬と比較して「生薬に科学的な根拠はあるの?」「西洋薬と何が違うの?」と疑問を持つ方は少なくありません。
そこで本記事では、漢方薬がなぜ効くのか、科学的根拠に基づいて漢方薬専門の薬剤師が詳しく解説します。
併せて西洋薬との効き方の違いも解説するため、「漢方薬が本当に効くのかわからない」と疑問を抱いている方はぜひ参考にしてください。
目次
漢方薬はなぜ効く?
西洋医学の場合、特定の症状に対して効果のある成分を投薬することで、症状ごとに異なる治療を行います。
一方で漢方は、身体の「気(き)・血(けつ)・水(すい)」のバランスを整えることで健康維持や回復能力を高めることを目的としています。
気(き) | 目には見えない生命エネルギー。自律神経の働きに近いとされている。 |
血(けつ) | 血液によって全身の組織に栄養を送り届ける。 |
水(水) | 血液以外の体液全般を指す。水分代謝や免疫システムに関わる。 |
身体の状態に合わせて生薬を組み合わせ、不具合をし応じている箇所だけでなく身体全体のバランスを整えることで、検査でも確認しにくい症状の改善も期待できます。
- 気虚(ききょ):疲れやすい、気力がない
- 気滞(きたい):重苦しい、不安感がある
- 気逆(きぎゃく):のぼせやすい、吐き気を感じやすい
- 血虚(けっきょ):息切れしやすい、乾燥する
- 瘀血(おけつ):あざができやすい、痺れる
- 水滞(すいたい):浮腫やめまい
- 津虚(しんきょ):便秘、乾燥
漢方薬がなぜ効くかを科学的に解説
漢方薬は生薬の組み合わせによって作られるほか、「気・血・水」という概念に基づいているため、「科学的ではない」といわれることも少なくありません。
しかし、近年ではさまざまな研究によって漢方薬に対する科学的根拠が立証されています。
漢方薬が効く理由について、科学的根拠をもとに解説します。
免疫調節作用
名城大学では十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)という漢方薬がアトピー性皮膚炎に有効であることを立証するための研究が行われています。
アトピー性皮膚炎は、免疫機能が異常に高まることで病的になった状態を指します。
この研究によって、十全大補湯はT細胞の一種である「制御性T細胞」を活性化させ、免疫が過剰になりすぎることを抑える働きがあると判明しました。
参考:名城大学|漢方薬と免疫力
神経伝達物質への影響
漢方薬は、脳で情報を伝達する「神経伝達物質」にも影響を与えることがわかっています。
例として、以下のようなものが挙げられます。
【抑肝散(よくかんさん)】
- 興奮性神経伝達物質であるグルタミン酸の過剰な活性を抑制し、
- 神経細胞を保護。
- セロトニン受容体の一種である5-HT1A受容体の機能を正常化し、
攻撃性や不安を軽減させる。 - 神経の分化や再生を促進する神経栄養因子様の作用を持ち、
認知機能の改善にも効果が期待できる。
【加味逍遥散(かみしょうようさん)】
- セロトニンに作用し、ストレス応答系(HPA軸)を調整し、
抗ストレス効果が期待できる。 - cAMP-PKA-CREB-BDNF経路※1を活性化し、
神経の可塑性や再生を促進させる。
※1:「神経細胞の働きや記憶・学習・気分の調整に関わる情報」を伝達する神経ルート
【人参養栄湯(にんじんようえいとう)】
- 脳内のコリン作動系を活性化し、認知機能や記憶の改善を行う。
参考:特定非営利活動法人 標準医療情報センター|漢方薬の最新知見 ~脳での作用機序を考察する~
参考:日本自律神経学会|漢方薬の作用機序解明からみたトランスレーショナルリサーチ
参考:日本自律神経学会|脳内コリン作動系の賦活化を介した漢方薬・人参養栄湯の 大脳皮質血流に対する作用
腸内細菌叢との相互作用
漢方薬の一つである大建中湯(だいけんちゅうとう)が、ラクトバチルスが作るプロピオン酸を通じ、「ILC3細胞」の一種を増やしていることがわかっています。
ILC3細胞が増えると「IL-22」と呼ばれる腸表面の組織修復を促すタンパク質が放出され、腸内環境の改善につながります。
これは理化学研究所の研究による発見であり、大建中湯が胃腸のはたらきが弱っている方に有効だとされる根拠の一つとなりました。
分子標的への直接作用
漢方薬は西洋医学と同じように、特定のタンパク質や受容体・酵素などの分子(ターゲット)へ直接的に作用していることが解明されています。
具体例として、前述した十全大補湯による免疫調整作用・抑肝散や加味逍遥散などによる神経伝達物質への作用・大建中湯による腸内環境の改善などです。
その他にも北里大学による研究結果として、「麻黄」のエキスが耐性肺がん細胞株の増殖を促成する働きがあることが報告されています。
※2:血液や体内の水分や塩分バランスを調整するための命令を受け取る受容体(タンパク質)
参考:KAKEN|北里大学「c-Met阻害作用を有する漢方薬の肺がん分子標的治療への応用」
多成分強調効果
多成分強調効果は、複数の生薬の組み合わせである漢方薬の代表的な特徴です。
複数の生薬の相乗効果によって効果を高め、多経路へアプローチをすることで、身体全体のバランスを整える効果が期待できます。
具体例として、風邪の初期症状で処方されることの多い「葛根湯」は7つの生薬が組み合わされ、各生薬ごとに異なるアプローチで症状の改善を目指します。
生薬 | 作用 |
葛根(かっこん) | 解熱・鎮痛作用、抗炎症作用 |
麻黄(まおう) | 発汗・解熱作用 |
生姜(しょうきょう) | 発汗・解熱作用 |
桂皮(けいひ) | 発汗・解熱作用 |
芍薬(しゃくやく) | 鎮痛・鎮痙作用 |
甘草(かんぞう) | 鎮痛・抗炎症作用 |
大棗(たいぞう) | 健胃・鎮静作用 |
関連記事:「痩せる?」と話題の五苓散の副作用を漢方医が解説!
漢方薬と西洋薬の効き方の違い
西洋薬のように分子標的への作用が科学的に証明されつつある漢方薬ですが、以下のように基本的な考え方や成分・効果が期待できる作用範囲に違いがあります。
漢方薬 | 西洋薬 | |
基本思想 | 体全体のバランスや 体質を重視し、 自然治癒力を引き出す | 病気や症状の原因・ 部位を科学的に特定し、 直接治療する |
成分 | 複数の生薬(天然成分) の組み合わせ | 単一または少数の合成成分 |
作用範囲 | 幅広く全身に作用し、 複数の症状や 体質改善にも効果 | 特定の症状や疾患に ピンポイントで強く作用 |
適応 | 慢性的な不調、体質改善、 原因不明の症状、 副作用を抑えたい場合 | 急性症状、明確な原因疾患、 即効性が必要な場合 |
副作用 | 比較的少ないが、 体質による個人差あり | 効果が強い分、 副作用も出やすい傾向 |
また、漢方薬と西洋薬では診断方法や処方の仕方・効果の出方なども異なります。
漢方薬と西洋薬の違いについて、詳しく解説します。
漢方と西洋医学の診断と処方の違い
西洋医学は、患者様の状態を科学的かつ倫理的に分析し、原因となっている箇所へ直接的なアプローチを行います。
そのため、診察や問診だけでなく、検査によって得られたさまざまなデータを基に診断を行います。
一方で漢方では、四診(望診・聞診・問診・切診)と呼ばれる独自の方法によって診断をします。
根本となる診断方法が異なるため、以下のように薬の処方にも違いがあります。
- 漢方:生薬を組み合わせ、患者様一人ひとりの状態に適した処方をする
- 西洋医学:突き止めた原因へ直接作用する薬剤を処方する
漢方薬と西洋薬の作用の現れ方の違い
漢方と西洋医学では、薬の作用の現れ方にも違いがあります。
西洋医学では、原因となるものに対して直接的にはたらく薬が処方されるため、薬による効果が明確で実感しやすい傾向があります。
しかし、漢方は自然由来の生薬による自然治癒能力を引き出し、症状の緩和や改善を目指す医学です。
そのため、薬の効き方は比較的緩やかです。
即効性が期待できないことはデメリットですが、西洋薬と比べて副作用が出にくい※3といったメリットがあります。
※3:体調や個人差による
本当に効く漢方薬のご相談なら運龍堂まで
漢方薬は多数の生薬の中から不調に合った組み合わせを処方することで、崩れてしまった身体のバランスを整えます。
しかし、似たような症状でも患者様一人ひとりの体調や季節を考慮しながら処方しなければ、求める効果を期待することはできません。
お悩みの不調へしっかりとアプローチし、ご自身に合った漢方薬で緩和や改善を目指したいという方は、漢方漢方専門の調剤薬局「雲龍堂」へぜひご相談ください。
身体に関するお悩みを丁寧にお聞きしたうえで、患者様一人ひとりに合ったオーダーメイドの漢方薬を処方いたします。
まとめ
漢方薬は自然由来の生薬が原料であるため、「効くという科学的な根拠がない」と思われる方は少なくありません。
しかし、近年ではさまざまな研究が活発に行われており、漢方薬の効果を示す科学的根拠も示されています。
一方で、身体のバランス(気・血・水)を整え自然治癒を促すという漢方の概念から、患者様一人ひとりの不調・季節を考慮した処方を行わなければ漢方薬の持つ効果を期待することができません。
雲龍堂では、漢方薬専門の薬剤師が丁寧なヒアリングを行い、患者様一人一人に合ったオーダーメイドの処方をさせていただきます。
また、遠方にお住まいの方や「体調不良で来店が難しい」といった方のために、メールやLINEによるオンライン相談にも対応しております。
身体に不調を感じていても、「自分の不調の原因がわからない」「自分に合った漢方薬がわからない」とお悩みの方は、ぜひ雲龍堂までお気軽にご相談ください。
この記事の監修薬剤師
運龍堂 佐藤貴繁
略歴
1977年 北海道生まれ。北海道立札幌南高等学校
北海道大学薬学部を卒業
2003年 薬剤師免許を取得
2006年 北海道大学大学院薬学研究科生体分子薬学
専攻博士後期課程を終了後、博士(薬学)取得
2011年 福祉社会法人 緑仙会理事 就任
2012年 杜の都の漢方薬局 運龍堂 開局
2013年 宮城県自然薬研究会会長 就任
2017年 宮城県伝統生薬研究会会長 就任


